イベントレポート
東北大学MICHINOOK コミュニティセミナー『東北大学の半導体における最先端の取り組み-先端半導体材料・デバイス・製造技術、人材育成まで-』を開催しました
2025年5月27日(火)、MICHINOOKコミュニティセミナー「東北大学の半導体における最先端の取り組み-先端半導体材料・デバイス・製造技術、人材育成まで-」を開催しました。
東北大学は、「ミスター半導体」の愛称で知られた西澤潤一先生をはじめ、世界の半導体研究を牽引してきた日本随一の学術機関です。そのパイオニア精神は現在も受け継がれており、多くの研究者が最先端の半導体研究に挑戦しています。今回のイベントでは、革新的半導体デバイスの研究開発から、製造工程に不可欠な周辺技術の確立、次世代の半導体研究を担う人材育成まで、東北大学で進行中の様々な取り組みが紹介されました。
開会にあたり、湯上理事・副学長から、「半導体は非常に重要な産業基盤であり、日本を挙げて半導体産業を復興させるための取り組みが行われている。本セミナーを通じて、半導体分野における研究開発および人材育成が、様々な産学共創のもとでさらに厚みを増し、加速することになることを期待する。」との挨拶がありました。

好田誠教授(東北大学大学院工学研究科)からは、「電子スピン波による多重情報処理基盤」というテーマで講演頂きました。現在の情報処理は、通信・演算・記録が異なる情報担体(光、電荷、スピン)によって処理されているため、情報の交通渋滞が発生し、結果的に膨大な電力を消費することに繋がっています。好田教授は、通信・演算・記録を担う情報担体を「電子スピン波」に統一した「波動性情報担体」を提唱。通信・演算・記録のシームレスな相互変換に加え、波の多重性を活用し多くの情報を一度に処理できる革新的な演算・記録機能の創出に取り組んでいます。これにより超省電力・高速情報処理が可能となり、自動運転に欠かせない車載コンピューティングなどへの応用が期待されています。

黒田理人教授(東北大学未来科学技術共同研究センター/東北大学大学院工学研究科)からは、「先進イメージセンサ技術と高精度半導体製造技術開発への応用」というテーマで講演頂きました。黒田教授からは、黒田教授が中心となって進めてきた「高感度・広ダイナミックレンジイメージセンサ」「高速・高時間分解能イメージセンサ」「高精度近接容量イメージセンサ」など東北大学の先進イメージセンシング技術についての紹介がありました。また、黒田教授がリーダーを務める次世代の高精度半導体集積回路の製造において不可欠となる「革新的イメージセンサと計測技術」に関する紹介もありました。最後に東北大学がラピスセミコンダクタ(株)との連携のもとで立ち上げたイメージセンサの試作環境を他の大学の研究者などに開放するなど、人材育成に関する取り組みについても発表されました。

遠藤和彦教授(東北大学流体科学研究所統合流動科学国際研究教育センター)からは、「2nm世代以降の先端半導体プラットフォーム(大規模集積化と高速化)」というテーマで講演頂きました。半導体は、1平方ミリあたり約3億個のトランジスタを集積する「2ナノ世代」の時代に突入し、2030年代にはトランジスタを三次元的に積層した、極めて複雑な構造体(3DVLSI)に進化すると目されています。本講演では遠藤教授が推進する、ナノ単位スケールの極薄シリコンシート内にトランジスタを作り込む「原子層成長技術」、半導体製造には欠かせない「酸化プロセス」を可視化する技術など、未来の半導体の製造技術の確立に向けた研究内容について発表頂きました。

白井泰雪教授(東北大学未来科学技術共同研究センター)からは、「未来情報産業研究館における半導体製造技術開発への取り組み」というテーマで講演頂きました。白井教授は東北大学が保有するクリーンルームを活用しクリーンルームの「ウルトラクリーンテクノロジー」の確立に注力されてきました。具体的には、半導体製造に用いる装置とその素材、薬品や各種ガス、さらにはクリーンルーム内の空気の循環経路に至るまで、全ての要素の「超清浄」に関するこれまでの取り組みを紹介頂きました。また、白井教授は、クリーンルームの省エネ対策から、洗浄水に含まれる溶存酸素対策まで、様々な企業と実施してきた研究成果を紹介した上で、さらなる連携に期待を述べられました。

戸津健太郎教授(東北大学マイクロシステム融合研究開発センター(µSIC) センター長/半導体クリエイティビティハブ(S-Hub) ハブ長)からは、「共用設備におけるMEMSを中心としたデバイス開発と東北大学の半導体人材育成」というテーマで講演頂きました。東北大学には半導体および各種装置の試作に必要な機材等が利用可能な「試作コインランドリー」という施設があり、研究者だけでなく企業等にも開放していること、実習プログラムも提供しており半導体における人材育成の取り組みも行っていることの紹介がありました。また、人材育成については、昨年立ち上げた「東北大学半導体クリエイティビティハブ(S-Hub)」についての紹介もありました。最後に戸津教授からはµSICの目指す姿として「オープンコラボレーションの考えのもとで、国内外の半導体技術者、学生、起業家のアイデアを“社会で使われるカタチ”まで、速く適切なコストで試作し仕上げられる拠点、さらに新しいアイデアが生まれ、人材が育つ拠点にしていきたい」との抱負を述べられました。



講演終了後は、情報交換や交流を目的とした「ネットワーキング」が開催されました。上記の講演者をはじめとした東北大学関係者はもとより、聴講に訪れた150名を超える来場者がネットワーキングの会場にも参加し、名刺交換や談話に花を咲かせ、活気のあるネットワーキングとなりました。

以上